日本時間の7月28日、マジック：ザ・ギャザリング公式サイトより背景世界記事であるMagic Story『約束されし終末』が公開されました。

遂に最終決戦へと臨むゲートウォッチ。しかしエムラクールの力は恐ろしいほどに強く、ジェイスの精神はいつの間にかラヴニカにある自室を模した空間へと誘われてしまいます。謎の光に導かれるまま螺旋階段を下ると、そこには苛まれる仲間達の姿と、意外な「人物」が待ち構えているのでした。

あらすじ

[リリアナ]
リリアナはエムラクールの精神攻撃に屈しかけるも最後のところで踏みとどまっていた。どこからか鴉の男がこの次元から離れろと警告する。普段は意味不明な言葉しか伝えてこない鎖のヴェールすらも彼女に逃げろと命令してきた。猛攻にリリアナが膝をつくとゾンビ達すらもエムラクールの支配下に置かれかけるが、リリアナは燃えたぎる怒りによってヴェールから無意識に力を引き出し一時的にコントロールを取り戻す。鴉の男が叫ぶ、百のヴェールを以ってしても勝つことはできないと。他のプレインズウォーカー達は死んではいないものの、防護呪文を維持するジェイスを除いて立っているものはいなかった。世界創造主から離れよ――そう語りかけるヴェールも無視してリリアナは攻撃を続ける。重要なのは自分自身の意思。ヴェールから力を引き出す度にもたらされる苦痛は、エムラクールの精神攻撃をゆうに越えていた。エムラクールが生きているのならば、死ぬ。死ぬのであれば、私のもの。リリアナの屍術がエムラクールの触手を穿つ。力は長く持たないと鴉の男が再度警告するが、リリアナは攻撃を続けた。自分自身が、そうしたいから。

鴉の男の言葉通り勢いは続かなかった。徐々にヴェールから引き出される力に体がついていかなくなっていく。触手の再生が攻撃を上回り始めた。君は私達を共に破滅させようとしている――鴉の男が言った。その言葉から感じられる諦めに、リリアナは恐怖した。次々に繰り出すゾンビの大群も尽く破壊されていく。もはや頭のなかに鴉の男やヴェールの声は響いていなかった。触手が迫り、それを爆破する。一瞬一瞬が瀬戸際だった。リリアナはジェイスに叫びかけるも、彼に反応はなかった。

[ジェイス]
ジェイスは気が付くとラヴニカの自室にいた。窓の外にエムラクールが見えるものの、限りなく自室に近い空間。ただひとつの違いは部屋の中央に螺旋階段があることだった。なぜ自分はここにいるのか、この空間は、この階段はなんなのか。階段の下で謎の光がジェイスを誘う。彼は訝しみつつも階段を下っていく。

降りた先には星屑の夜空と、その空が形作った巨大な人影があった。二本の黒い角、青白い肌、巨大な鞭。テーロスの神、エレボス。そしてその前に立つギデオン。彼の顔には怒りと恐怖があった。彼の回りにはゲートウォッチの仲間たち、いるはずのない自分の姿もあった。キテオン・イオラの真に望むものを答えよ――ギデオンは答えを返すもののその全てが否定される。否定のたびに仲間が殺されていく。消沈したギデオンが再び口を開きかけたその時、世界が暗転した。

ジェイスが更に下へと進むとそこにはタミヨウがいた。小さな作業台で巻物を読んでいる。突如タミヨウの目から血が流れ出す。そして彼女の体に肉の格子構造が現れ、成長を始め目や口、手の機能を奪っていく。彼女の魔法に必要なものが全て奪われていた。ジェイスは絶叫し不可視の壁を叩くが、部屋は微動だにしない。

次の部屋には衛兵に囲まれ泣き叫ぶ幼き日のチャンドラの姿があった。隊長と思しき人物が両親の殺害を告げ、お前には何もできないと煽るとチャンドラは口を開いた。お前たちを燃やすことはできると。すると衛兵達が次々と燃え上がった。チャンドラは叫んでいた。それが苦悶なのか歓喜なのかは、ジェイスにはわからない。

更に下には苦しみ藻掻くニッサがいた。彼女の手からは何十本もの指が生え、のたくっていた。眼窩からも幾つも小さな眼球が飛び出し、そこに更に目玉が。エムラクールはエムラクールは永遠にエムラクール。突然頭のなかに思考がよぎる。意味不明な言葉を撒き散らしつつ徐々に人としての形を失っていくニッサ。ふいに、彼女がジェイスを見つめた。紫の光に包まれたニッサはジェイスへと告げる。私は望むままに何でもできる、貴方を救うのはただ……私は何も求めない。

下に降り続けるとそこには分厚い樫の扉があった。導かれるように扉を開くと、そこには一体の天使がいた。フードを被り、剣を持ち、その羽根は傘を開いたかのように大きかった。ジェイスはその姿に覚えがあった。ゼンディカーで見た彫像、風の女神エメリア。彼女はエムラクールなのだろうか。「座っていい？」そう語りかける彼女に警戒を保ちつつ――ジェイスはいつの間にか彼女を歓迎していた。彼女は巻物を広げ、それに何かを書き始める。この巻物はなんだったか、思い出せない。「これは何もかも間違い」「私の時じゃない。今はまだ」とりとめのない問答の末、エメリアはジェイスにチェスでの対戦を申し込む。対戦中、エメリアはジェイスの脳に適応力があると語る。彼女の正体はエムラクールの放射を理解しようとするジェイスの脳が生み出した擬人格だった。ジェイスがチェックメイトを告げると、駒達が突然動き出し、周囲を破壊し、ジェイスのキングへと向かい始めた。そんなことをするな、俺の駒だ――ジェイスが叫ぶとエメリアは言った。これは全部私の駒、ずっとここにあったもの、もう遊びたくないだけ。突然、部屋にもう一つの扉が現れる。私が来る、答えを見つけて。エメリアの言葉を背にジェイスは扉へと駆けた。

最後の部屋にはジェイスがいた。イニストラードに来た際に自分自身が用意した安全装置、切り離した自分の複製人格。それがこの空間の正体だった。複製はタミヨウと話せと告げると、ジェイスと一つになった。リリアナが死にかけている。ジェイスは空間を構成する呪文を解いた。

[共通]
気が付くとリリアナが目の前で気を失い横たわっていた。他のプレインズウォーカー達もよろめきながらも意識を取り戻す。破壊し得ぬものは縛られるべし――タミヨウは皆に月への封印を提案する。獄庫の起源、銀の月。ジェイスがタミヨウとエムラクールを繋げ、不完全ながらニッサが力線のマナでタミヨウの束縛呪文を強化し、月へと誘導する。それが最終作戦の内容だった。

作戦開始と同時にタミヨウが巻物を取り出し詠唱を始める。月に印が刻まれた。だがマナが決定的に足りない。ニッサがよろめき、呪文が失敗しかける。その時、タミヨウとジェイスの精神接続が切れた。タミヨウは二つ目の巻物を取り出す。鉄の輪の巻物。詠唱が始まると、ジェイスの体に規格外のマナが流れ込み始めた。ジェイスは全力で呪文を放ち、光に包まれたエムラクールは月へと引かれ、空間が歪み、弾け――封印された。遂に得た勝利……しかしその横でタミヨウは膝をついて嘔吐した。

意識を取り戻したリリアナは歓喜していた。今回の戦いを通して「仲間」の重要性を知ったからだ。友とは即ち優秀なゾンビのようなもの。いざというときに助けてくれる、大切な部下。私のゲートウォッチ。ギデオンはタミヨウをゲートウォッチへと勧誘したが、彼女はかぶりを振った。そして次にリリアナの下へとやってくる。彼女は誓いの言葉を述べた。上品で、少しシニカルで、澄んだ誠実な言葉。「一人よりも力を合わせたほうが強力になれるのはわかっているわ。それで私が力を得て、鎖のヴェールに頼らなくて済むなら、私もゲートウォッチになるわ。これでいい？」。

小さな教会の瓦礫の中、タミヨウは座り込んでいた。ジェイスは問いかける、接続が切れた時何が起こっていたのかと。あの瞬間、自分はエムラクールに操られていたこと。エムラクールが取り出したのは鉄の輪の巻物だったこと。そして、詠唱された呪文は記されたそれとは完全に別のものだったこと。「私たちは本当に勝利したのでしょうか」、そう言ってタミヨウは別れの挨拶もなく去っていった。ジェイスが空を見上げると、月には勝利の証であるはずの印が鮮やかに刻まれていた。

用語解説

エレボス/Erebos[神（テーロス）]
死、不幸、嫉妬……そして富を司る次元テーロスの大神にして死の国の番人。手には死者を束縛する鞭マスティクスを持つ。

キテオン・イオラ/Kytheon Iora[人物]
ギデオン・ジュラの本名。彼とテーロスの神々との因縁については公式記事『ギデオンの「オリジン」：アクロスのキテオン・イオラ』を参照のこと。

エメリア/Emeria[神（ゼンディカー）、架空]
次元ゼンディカーにおける伝承の女神、もしくはそれを由来とする同名の土地。マーフォークは空の女神エメリア（エム）、コーは風の女神カムサとして崇める。遥か昔にナヒリが伝えたエムラクールの脅威が長い年月を経て曲解、神格化された存在。

関連リンク

『異界月』物語アーカイブ
『イニストラードを覆う影』物語アーカイブ
次元概略：イニストラード
ギデオンの「オリジン」：アクロスのキテオン・イオラ
チャンドラの「オリジン」：炎の道理

ソース

約束されし終末 – MTG米公式サイト